九十三年

<あらすじ>

1793年は、フランス革命の混乱も収まらず、ルイ16世が処刑され、ロベスピエール、マラ、ダントンらの恐怖政治が始まった年である。
そうした混乱の最中、ヴァンデ地方で王党派による反革命の火の手があがり(青軍)、共和国軍(白軍)が討伐に向かう。
自由と平等という革命の大義のもとで新たに生まれた熾烈な権力争いの中、反革命軍の首領ラントナック、彼の甥の子で「人間愛」の理想に燃える鎮圧軍の若き将軍ゴーヴァン、革命政府から鎮圧に派遣された元神父のシムールダンという3人の主要人物を通して、理想と現実の狭間で翻弄される人々の姿を描き、人間愛とは何かを問いた歴史大作。

【池田名誉会長の著作より】

 ユゴーは、革命と内乱の渦巻く十九世紀に生き、絶えず「未来のこと」を考えていたといわれる。とくに「未来」の象徴としての子どもを大切にしたのは、その一例である。たとえば『九十三年』でも、ラントナック侯爵が最後に三人の幼児を救い出したシーンについて、戸田先生は言われたものである。
「あの三人の子どもは、作者にとって『未来』の象徴だった。だから、救いだすように設定してあるのだ。子どもは未来の宝だ。未来からの使者だと思って大事にしなさい」
ユゴーは、フランス文学に初めて「子ども」を主役として登場させた作家であるといわれる。子どもに深い愛情をそそいだ詩人として、あまりにも有名だ。